ヒバリ誕生日企画書き下ろしSS「Happy birthday to me」

 そろそろ仕事も終わる時間。今日は何故かみんな慌ただしく、いつもはオフィスにいるシシバも席を外していることが多かった。帰りにヨークプラザに寄って買い物を……いや、食事も済ませて帰る方が楽かな。テイクアウトのデリを買って帰るのもいい。そんなことを考えながらオフィスのドアを開けた。 

「あ、やば、ヒバリ来ちゃった!」 

「なんだよ、全然間に合ってねーじゃねーか」

  オフィスは昼間とはうって変わって騒がしいようだった。カラフルな飾り付けが目に入り、タテワキやイノリちゃんがテーブルに並べている皿を見れば、そういうことかと思い当たる。

  どうやら、僕は今日、誕生日だったようだ。

「隠そうとしても意味ないんじゃない? もうバレてる」 

「えー! サプライズ失敗? ……じゃあ、もういっか、みんな、せーの!」 

「ヒバリ、誕生日おめでとうー!」

  リコ達は声を揃えて、大きなケーキを差し出す。 

「ありがとう。今日、誕生日だったんだね」

「だったんだねって、他人事みたいだな」 

「ヒバリは甘い物苦手でしょー? このケーキ、お野菜で作ってあるんだって! だから安心して食べてね!」

  リコは得意げにケーキを掲げてみせる。 

「あの、実はまだ準備が終わってなくて……少し待っててもらってもいいですか?」 

 彼女は申し訳なさそうに僕を見上げた。 

「僕も手伝おうか?」 

「ヒバリさんはゲストなんですから座っててくれないと困ります」 

「はいはい、わかりました」 

 そう言って頭をぽんと撫でると、彼女は満足げに笑って踵を返した。

 「おーい、イノリ! お前、ロティサリーチキンのソースってどっちも大丈夫だったっけ? ブレッドソース? グレービーソースも平気? それとも両方好きー?」 

「大好きです!」

「おっと」

  タテワキの声に、彼女は勢いよく振り返りながら返事をした。その勢いで、僕の胸にぶつかる。 

「ご、ごめんなさい! 私、確認もせずに思い切り振り返っちゃいました……」

「大丈夫、そんなに慌てて準備しなくても。僕はゲストらしいからね、のんびり待ってるよ」 

「はい、すみません。もう少しだけ待って……あっ!」

  彼女の視線の先は、僕の服についたピンク色だった。

「あの、これ、私のリップの色ですよね。すみません、今ぶつかった時に……」

「ほんとだ。大丈夫、リフレッシュルームにいけば食器用の洗剤があるから、口紅なら落ちるよ」 

「ごめんなさい、染みにならないといいんですが……」

 「じゃ、ちょっと落としてくるね」

  オフィスのドアに手をかけた時、横から視線を感じて目をやる。物陰から猫のような目で僕を見ているリコがいた。

「口紅の落とし方を知ってるのも『大人の嗜み』?」 

「かもね」

  笑って部屋を出る。人の少なくなった夜の廊下は静かだ。ふと、さっきの彼女の言葉が、もう一度耳に響いた気がした。 

(『大好きです』、ね……)

  大きく息を吸って振り返り、もう一度オフィスのドアを開ける。 

「イノリちゃん」

  呼びかけると、小走りに駆け寄って来た。 

「はい。……あっ! もしかして、落ちなかったですか? あの、クリーニングは……」

「大好きだよ」

「はい?」

  僕が見たかった、その顔。きょとんとした、大きな目。

「グレービーソース」

「あ、はい!」

  微笑んで、小さく頷く彼女。


  ……ハッピーバースデー、トゥミー。



 (text by minetaka)